最近「ASMR」というワードをよく聞きますよね。
癒し効果があると話題のASMR。
本当に癒し効果はあるのでしょうか?
また、そのとき脳では何が起こっているのでしょうか?
考えていきましょう。
ASMRとは?
ASMRとは、「Autonomous Sensory Meridian Response(自律感覚絶頂反応)」
の略です。
主に聴覚刺激が引き金となり、頭や首すじにゾクゾクとした快感を感じたり、眠気を誘うなど心地よさを感じたりする現象のことです。
引き金となる刺激のことを「トリガー」と言います。
トリガーとなる刺激は、
囁き声、雨の音、シャンプーの音など、多岐にわたります。
心地よいと感じる音の趣向は人それぞれで、
他の人には不快な音でも、誰かにとってはたまらなく気持ちいい音だったりするわけです。
授業中、妙に眠気を誘う声の先生なんていませんでしたか?
あれも立派なASMRだと考えられます。
YouTubeで「ASMR」と検索してみてください。
実にさまざまなジャンルのASMR動画が出てきます。
スマートフォンの普及に伴い、眠りにつく前に聴くなど、ASMR動画は身近なものになってきています。
ASMR動画の歴史
ASMRという言葉は2010年、米国人女性ジェニファー・アレンによって命名されました。
それ以前から、この名前のない正体不明のゾクゾクする感覚は認知されていたようで、
2007年に「SteadyHealth.com」という掲示板サイトで
「Weird Sensation Feels Good 」(訳:変な感覚がいい感じ)というスレッドが建てられると、この現象について掲示板ユーザーの間で議論がなされました。
ジェニファー・アレンはASMRという命名に当たって、長く使われることを意識して敢えて臨床的な名前を付けました。
彼女が2010年にFacebookでASMRグループを設立したことで、「ASMR」は臨床用語として広く知られるようになります。
快感が起こる仕組みを考察
ASMRによる快感は、どのようにして起こるのでしょうか。
実はまだ科学的に実証はされておらず、実在する生理現象であると証明されていません。
とはいっても、これだけ多くの人に共感されるこの現象には、間違いなく理由があるはずです。
人間を含め、生物の反応は全て意味があり、
そうした方が生存に有利に働くから、進化の過程で現在まで遺伝子プールの中に存在し続けていると考えられるからです。
一口にASMRと言ってもさまざまなジャンルがあります。
その中でもおすすめのものをいくつか例に出し、
快感を感じる仕組みについて、少し考察してみたいと思います。
1. 水の音
人間を始め、あらゆる生き物にとって、水は生きるために欠かせないものです。
そのため、水の音を聴くと本能的に安心して落ち着くのはごく自然なことかもしれません。
人間のように「水」というものの役割を知らなくても、
水の音を心地よく感じる反応が、生物を水のある方へ向かわせる一因として働いていると考えられます。
水の音を心地よいと感じるのは、遺伝的要因が強いのではないかと思われます。
また、水の音をはじめとする自然界のものは、「1/fゆらぎ」という規則と不規則が調和した状態にあると言われています。雨音もそうですし、木目やホタルの発光などの視覚刺激にも存在するとされています。
人間は、時間という感覚・概念を持っている数少ない動物です。それゆえ、次に起こる物事を予測する性質があるのではないかと思うのです。
予測が視覚・聴覚刺激に対しても起こり、時計の針の音などの規則的な音が聞こえると気になって眠れなくなるのも、この予測の脳機能が働きやすくなって、脳が休めなくなっているのではないかと思います。
1/fゆらぎには癒し効果があるとして有名です。
予測疲れしている脳にとって、水の音を始めとする1/fゆらぎはリラックス要因になるのかもしれません。
2. 囁き声
囁き声はもともと、霊長類の母親が子どもをあやす時に使う声と言われています。
幼い頃に母親に甘えた体験が呼び起こされ、非常に安心するのかもしれません。
また、胎児が母親の胎内で聴く母親の声が、囁き声に近い周波数になるという説もあります。
いずれにせよ、囁き声は母親を連想させ、安心するのでしょう。
囁き声を心地よいと感じるのは、遺伝的要因と、後からの経験的要因の両方が考えられます。
3. シャンプー 耳かき
美容室でしてもらうシャンプーは、多くの人にとって、気持ちいいものですよね。気持ちよかった記憶は、聴覚や嗅覚など、五感とともに記憶されています。
音を聴くことで、気持ちよかった記憶が思い出され、感覚が誘発されると考えられます。
脳は、「耳元で水がワシャワシャという音が聞こえたらシャンプーをされる」というふうに、2つの現象を結びつけて覚えているので、音だけ聞こえた場合にも、脳が勝手にシャンプーをされているときの感覚を感じるのではないでしょうか。
シャンプーを心地よいと感じるのは、経験的要因からだと思われます。
4. 咀嚼音など嫌いな人も多い音
クチャクチャという咀嚼音は、嫌われることが多い音だと思います。
不思議ですが、それにも関わらず心地よいと感じる人がいるのも事実です。
まず前提として、「咀嚼音」は好き嫌いを置いておいても、耳につく気になる音であることは間違いないと思います。
それゆえに、咀嚼音を聴いている間、意識は否が応でも聴覚に集中しがちになるのではないでしょうか。
つまり、咀嚼音を聴いている間は余計なことを考えずにすみ、嫌な思考、やらなければいけないことなど、日々のストレスから解放されるわけです。
実際にマインドフルネスでは、呼吸など体の感覚に意識を向け、「今」という瞬間に意識を集中させることで、余計な悩み事などを意識の外にやり、ストレス解消の効果を得ようとします。
ASMR動画にもこれと同じような効果があるのではないかと考えられます。
また嫌な思考から逃れるためにしてしまう行動に、食事や自慰行為などがあります。
これら行為の後には脳の働きが鈍くなり、一時的に嫌な思考から解放されるかもしれませんが、
頻繁に繰り返すと、過食や依存症になり、体に悪影響を及ぼします。
これらの行動をしてしまうよりはずっと健康的なストレス解消法なのではないでしょうか。
このことは、その他のASMR刺激にもいえることだとは思いますが、特に咀嚼音は聴覚に意識が向きやすいのではないかと思います。
5. スライム
これも、普段聞き慣れていない音なので「何だろう?」となり、聴覚に意識が集中しやすい音だと考えられます。
独特の「ジュルッ」とした音は水の音や咀嚼音にも似たところがあると思います。
あなたにとっての「トリガー」を見つけよう!
聴覚に意識を集中させ、思考や悩みをから解放されることで得られるストレス解消効果は、どのASMRにもいえることだと思います。
脳は場所によって働きが違うのですが、現代人は思考系の脳を使いがち。同じところばかり使っていると疲労しますが聴覚系を使うことで他の機能が休まると考えられます。
我々の脳は予想以上に疲れているのかも。
今回あげたもの以外にもキーボードのタップ音や、石鹸をカットする音など、さまざまなトリガーが存在します。
そういえば、なんかあの音気持ちいいな、と思う音があったら、それはあなたにとってのトリガーかもしれません。
まだまだ謎が多い、奥深いASMRの魅力に浸ってみてはいかがでしょうか?